μPD780余多話

- ZとIのはざまで -

その生い立ち


μPD780C-1  μPD780はNECが発表した、ザイログのZ80 CPUと同等のバイナリコード実行性能を持つ8ビットCPUです。しかし、μPD780に「Z80」の刻印はどこにも見あたりません。つまりこれは、μPD780がZ80の正式なセカンドソースで無い事を意味します。NECでは一貫してμPD780C-1をZ80A相当品と呼んでいる事からも、それが伺えます。

 1979年当時、NECはi8080A互換のCPUμPD8080Aをはじめとするインテルの各種チップの互換品を生産しており、それらの製品を使用したトレーニングキット・TK−80シリーズを販売していました。そのヒットを受けて、同社は用途をソフトウェア方面にも拡大したパーソナルコンピュータを計画しました。そのPCのCPUには、i8080Aをハードウェア・ソフトウェアの両面から使いやすくしたZ80の採用が内定したのは必然といえます。
 トレーニングキットもパーソナルコンピュータも半導体製品ですから、利潤・流通面において自社製品を組み込んで売る方が有利です。このPCのCPUには自社製Z80A相当品のμPD780C-1が採用されました。主要LSIやメモリについても同様ですが、回路を構成する74LSシリーズについては他社製品を使用しています。

 型 番
CPUμPD780C-1
ROMμPD2364C
RAMμPD416C-3
CMT/RS-232CμPD8251C
DMACμPD8257C-5
CRTCμPD3301D
割り込みコントローラμPB8214
FDDインタフェースμPD8255AC-5
本体主要LSI
 型 番
CPUμPD780C-1
ROM2716
RAMμPD416C-3
I/OインタフェースμPD8255AC-5
FDCμPD765AC
サブシステム主要LSI

 サブシステムというのは、当時まだ高価だったPC-8031ミニフロッピィディスクユニットの事です。本体の倍近い価格が付いていましたが、これはROM容量や接続デバイス、拡張性こそ異なるものの、本体と同じコンピュータシステムになっていたからです。更にこのディスクユニットを本体と接続する為には、PC-8011PC-8012、PC-8013もしくはPC-8033のいずれかが必要でした。本体側のFDDインタフェースμPD8255Aは、正確にはこれらの後付けユニットに内蔵されています。割り込みコントローラμPB8214も、割り込みを使用する外部周辺機器を接続する拡張ユニット側に内蔵されています。
 これらの主要LSIのうち、自社開発のものは緑字の2品種だけで、あとは他社開発の相当品(自社生産品)です。
 ROMの型番及びパッケージ材質は一部確認が取れていません。

 :NECのチップ型番の末尾がA(改良型を表わす)以外のアルファベットの場合、慣例としてチップのパッケージ材質を表します。CがDIPプラスチック、DがDIPセラミックです。ハイフン(-)の後に数字が付いている場合、動作速度を表わしますが、これは通番と実クロック(単位:MHz)が混在しており、一貫していません。
 当庵内の記事では、型番表記について統一されておりません。あらかじめご了承ください。

 こうして発表されたパーソナルコンピュータはPC−8001と命名され、世に送り出されます。同機のヒットにより、これ以降のNECの8ビットデスクトップパソコンのCPUは、すべてμPD780C-1もしくはμPD70008AC-8を採用していますが、Z80ファミリを搭載している機種はありません。主要周辺はすべてインテルの石で固められています。

 μPD780のZ80互換度がどの程度なのかは、純正Z80 CPUとZ80ファミリを採用したマシンのCPUを、μPD780と差し替えてみなければ判りませんが、ソフトウェア的には搭載機で命令群の動作を確かめられればよい訳です。ここではμCOM-82(μPD780)の命令セットを例示しますが、この表を見る限りにおいては、純正Z80との差異は認められません。というか、ひと頃のZ80解説書の巻末付録に掲載された命令セット表は、そのほとんどがμCOM-82インストラクション活用表からの転載でした。


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同等品・上位互換品リスト(ほんの一部)
CPU別命令セット表
 ・μPD780(Z80)
 ・i8085[暫定版]
 ・HD64180(Z180)
 ・Z80280(Z280)[簡略版]
 ・Z80380(Z380/Z382)

上位プロセッサ追加命令比較表(ニモニック順)
上位プロセッサ追加命令比較表(オペコード順)
命令実行速度(クロック)比較表
修練場


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8080

 通常8080といえばi8080Aを指す。末尾のAは改良版の意で、そのままi8080の改良版という意味である。これは、無印i8080がハードウェア的に限りなく不良品に近いプロセッサであった為で、セカンドソースもi8080Aが基準になっている(例外もある)。ソフトウェア的には両者に違いはない(NEC製を除く)。
 NECからはi8080Aのセカンドソースとして、μPD8080Aという一部演算時のフラグ動作を改良したものと、μPD8080AFというi8080A完全互換のものの2つが発表されている。前者の改良は技術者が良かれと思って行ったものだったが、オリジナルと異なる動作が嫌われ、全く売れない改悪だった。この時の反省から
PC−8001のBASICは、当時のデファクトスタンダードであった(と今では言われている)Microsoft社製を採用したとも言われている。
 一説によれば、PC−8001に同社製BASICを採用させた(というよりは、同社製BASICの動作するマシンを作らせた)のは、アスキー社長の西和彦氏だという話もあるが、定かではない。

V30

 V30(μPD70116)はi8086とピン互換で、命令実行速度も平均で10%程度向上している。命令セットはi8086上位互換CPUのi80186相当のものに、NEC独自のビット操作命令を付加したものと思ってもらってよい。更に8ビット(CP/M)資産を活かすため、μPD8080AFのエミュレーションモードも備えている。
 だがこの石はインテルのお気に召さなかったらしく、係争問題に発展した。
 後に著作権侵害はないという司法判断が下されたが、売り時にインテルとすったもんだしていたため敬遠され、『勝負に勝って商売に負けた石』と言われている。この係争がNECの独自プロセッサ路線への冷や水となった事は疑いが無い。
 V30には数値演算プロセッサの提供も予定されていたが、i8087を流用できる事から発売されなかった。
 その後、係争問題の争点の一つだったマイクロコード問題を解決(回避?)したV33(μPD70136)というプロセッサも発表された。これはV30のマイクロコードを総てワイヤードロジックに置き換えて高速化を図ったものだ。μPD8080AFエミュレーションモードも削られている。この石は追加定義されたベクタがi80286と異なっていた為、それを修正したV33A(μPD70136A)がリリースされている。
 μPD70116自体は生産終了しているが、V30コアはその後も改良を重ね、V30HLを強化したV30MX、命令セットを若干縮小して高速化を図ったV30MZなどが発表されている。V30M*のソフトウェア面は、実行速度以外より一層i80186に近くなっている。
 V30は他にもSONY、シャープがライセンス生産していた。
 NECはμPD70116について、ザイログとセカンドソース契約を結んでいる事から、交換条件的にZ80問題は和解しているのかも知れないが、定かではない。

インテルの石

 いわゆる80系と呼称されるLSI群。特に825*シリーズは汎用品として有名である。オリジナルはi8080A時代のものだが、細かい改良を施されi8080A以外との接続性を持たせている。その為数も出ており価格も安い。DIPパッケージの単品を見かける事は少なくなったが、今でもそのロジックは健在である。赤字はPC−8000/8800シリーズにも使われている石である。

型 番説 明
シリアル
8251A(USART)
1チャネル。同期通信に対応。
RS-232C・カセットI/Fに択一で使用。
タイマ・カウンタ
8253(PIT)
16ビットカウンタを3チャネル装備。
本体には使用されていないが、PC-8801-10に実装。
パラレル
8255A(PPI)
8ビットI/Oポートを3チャネル装備。
ミニフロッピーディスクユニットとのハンドシェイクに1組、
その他汎用パラレルポートにも使用。
DMAコントローラ
8257(DMAC)
16ビットアドレス/14ビットレンジを4チャネル装備。
CRTCへのオートロードデータ転送および、8インチフロッピーディスク、CD-ROMとのデータ転送に使用。
DMAコントローラ
8237A(DMAC)
16ビットアドレス/レンジ。
AMD社Am9517Aのセカンドソース品。
よって825*系ではないが、8257を蹴落として系列品の仲間入り。
割り込みコントローラ
8259A(PIC)
8レベルの優先順位付き個別制御が可能。
IBM-PC/AT互換機やPC-9801(初代除く)ではカスケード接続で15レベルの制御に使用。
PC−8800シリーズの割り込みコントローラには、一世代前の8214が使われている。これは8レベルの優先順位付き制御が可能。

 825*系の石はNECもCMOS化している。

型 番説 明
シリアル
μPD71051(USART)
μPD8251AをCMOS化。
タイマ・カウンタ
μPD71054(PIT)
μPD8254(μPD8253Aの改良品)をCMOS化。
パラレル
μPD71055(PPI)
μPD8255AをCMOS化。信号入力条件が改善され、高速Z80などでも使用しやすくなっている(と思う)。
DMAコントローラ
μPD71071(DMAC)
μPD8237AをCMOS化。20ビットアドレス/レンジ。
アドレスが拡張されている。
割り込みコントローラ
μPD71059(PIC)
μPD8259AをCMOS化。

Z80ファミリ

 Z80CPU(Z8400)以外では使いにくいものもあり、最近は単品で入手するのが少々難しくなってきた。設計の自由度を犠牲にして集積度を取るか、その逆か、悩み所といえる。

型 番説 明
シリアル
Z80SIO(Z8440〜4)
USARTを2チャネル装備。
SDLCに対応しているので敷居が高め。
40ピンDIPに全機能を割り当てられなかった為、0/1/2はそのボンディングオプション(配線違いバージョン)となっている。
ピン844084418442
25/DTRBTxDB/DTRB
26TxDB/TxCBTxDB
27/TxCB/RxCB/TxCB
28RxDBRxDB/RxCB
29SYNCBSYNCBRxDB
44ピンの全機能型Z8443(QFP)、Z8444(PLCC)もある。
タイマ・カウンタ
Z80CTC(Z8430)
8ビットカウンタを4チャネル装備。
パラレル
Z80PIO(Z8420)
8ビットI/Oポートを2チャネル装備。
一部セカンドソース(LH5081L)は、ステータス情報ワードが拡張されていて、現在のポートモードなどが読み出せる。
DMAコントローラ
Z80DMA(Z8410)
DMAシステムを1系統装備。システムに応じた細かい設定が可能。
クロックは8MHzで打ち止め。
割り込みコントローラ システムをZ80ファミリで固めていれば、特に必要としない。但しシステムはすべて同一耐クロック品で揃える必要がある。
シリアル
Z80DART(Z8470)
 
決定版
Z80KIO(Z84C90)
Z80CTC、Z80PIO、Z80SIOの3種の神器をまとめたI/Oデバイス。
パッケージは80ピンQFPと84ピンPLCCがあり、動作周波数は共に8、10、12MHz。
決定版は冗談みたいだが、Killer I/Oだからあながち外してもいないだろう。90=20+30+40?
シリアル
Z80SCC(Z8530)
シリアルを2チャネル装備。
Z80SIOを更に強化(ソフトウェア上位互換)し、他CPUとの接続性を高めている。
Z85**はZ8000用のデバイスを汎用化したものである。


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